2026/10/21 09:09


革職人にとって、ビジネスの成功とは何なのか? 3つの経営スタイルを考える



革製品を作って販売する仕事を続けていて、ふと考えることがあります。


商売として成功するって、一体どういうことなんだろう?


売上が大きいことなのか。

たくさんの職人を雇って、大きな会社を作ることなのか。


それとも、自分が好きなものを作って、それを気に入ってくれる人に買ってもらうことなのか。


レザークラフトの世界にも、いろいろな商売の形があります。


今回は、革職人として、そして中目黒で小さな工房を経営する立場から、3つのビジネスの形について考えてみたいと思います。



1. 職人やデザイナーを抱え、さまざまな商品を展開するメーカー


まずは、自社で職人やデザイナーを雇い、さまざまな革製品を企画・製造・販売するメーカー。


財布、バッグ、靴、小物など、幅広い商品を展開し、ブランドとして成長していくビジネスです。


この形の魅力は、個人では実現できない規模のものづくりができること。


職人ごとに仕事を分担し、技術を共有しながら、より多くのお客様に商品を届けられます。


雇用を生み出し、技術を次の世代に残していくこともできます。


一方で、人を雇えば毎月の人件費が発生します。


工房の維持費、材料費、在庫、販売管理など、売上が落ちても簡単には減らせない費用があります。


さらに、会社が大きくなるほど、経営者は革に触れる時間より、人や数字を管理する時間が増えるかもしれません。


ものづくりが好きで始めた仕事なのに、いつの間にか自分がものづくりをしなくなる。


それが悪いことだとは思いません。


ただ、経営者としての仕事と、職人としての仕事は、必ずしも同じではないということです。



2. 商品と顧客を絞り込む、少数精鋭の会社


次は、自分たちの強みを理解して、商品もターゲットも徹底的に絞り込むビジネス。


何でも作るのではなく、自分たちが得意なものを、必要としてくれる人に届ける。


少ない人数で、無理に売上規模を追わず、きちんと利益を残すことを目指します。


例えば、革財布だけを専門に作る会社や、特定のデザインのバッグに集中するブランド。


商品を絞れば、材料の仕入れや製作工程を整理しやすくなり、品質の安定や作業効率の改善にもつながります。


もちろん、リスクもあります。


商品を絞るということは、その商品の人気が落ちたときの影響も大きいということ。


また、少人数だからこそ、一人が抜けたときの負担も大きくなります。


ただ、僕自身は今、この形を目指しています。


大きな会社にしたいというより、自分たちが得意なものづくりで、きちんと利益を残し、生活を安定させられる会社にしたい。


職人が無理をし続けなければ成り立たない商売ではなく、ものづくりを長く続けられる商売にしたいと思っています。



3. 自分の作りたいものを追求する個人職人


そしてもう一つ。


自分が欲しいもの、自分がかっこいいと思うものを作り、それに共感してくれる人に買ってもらうビジネスです。


これは、僕自身がものづくりを始めたときの感覚に近いと思います。


例えば、僕は栃木レザーが大好きです。


革の質感、厚み、腰の強さ、使い込んだときの表情。


その革を使って、自分が本当にかっこいいと思えるものを作りたい。


世の中で何が売れているかより、まず自分が欲しいかどうか。


そんな考え方で生まれる商品もあります。


この形の最大の魅力は、自由です。


誰かの許可を取る必要もなく、売れ筋に合わせてデザインを変える必要もない。


自分の美意識をそのまま商品にできます。


ただし、自由であることと、商売として成り立つことは別の話です。


どれだけ自分が気に入っていても、買ってくれる人がいなければ売上にはなりません。


制作、販売、発送、経理、集客。


すべてを一人で抱えることになれば、作りたいものを作る時間さえなくなるかもしれません。


好きなものを作って生きていくことは、とても魅力的だけど、決して簡単なことではないと思います。



楽天市場で、安いものをたくさん売っていた頃


実は以前、楽天市場に出店していたことがあります。


当時は、比較的安い商品をたくさん販売する商売をしていました。


注文が入れば、作る。


また注文が入れば、作る。


売上を作るためには、数をこなさなければならない。


でも、安い商品をたくさん売るということは、それだけ多くの作業が必要になるということでもあります。


材料を用意して、製作して、梱包して、発送して。


とにかく忙しかった。


身を削るように働いていた記憶があります。


そして、振り返ってみると、あれだけ大変だったのに、何が残ったんだろうと思うんです。


もちろん、経験は残りました。


でも、商売として十分な利益が残ったかといえば、そうではありませんでした。
そこで考えるようになりました。



たくさん売ることが、本当に成功なのか?


売上が増えても、作る人間が疲弊して、利益も残らない。


それでは、長く続けていくことができません。


安いものをたくさん売るビジネスが悪いわけではありません。


効率的に生産できる仕組みや、十分な利益を確保できる会社なら、立派なビジネスとして成立します。


ただ、少なくとも当時の僕には、そのやり方が合っていなかった。


それは、実際に経験したからこそ言えることです。



結局、どれが成功なのか?


大きな会社を作って、多くの職人を雇うこと。

少数精鋭で、利益を残せる会社を経営すること。

自分が作りたいものを作り、それを好きだと言ってくれる人に届けること。



どれも、成功の形だと思います。


ただし、何を成功とするかは、人によって違います。


僕にとっては、今のところ、会社を大きくすることが最優先ではありません。


自分が本当にかっこいいと思うものを作りたい。


でも、それだけでは生活できない。


だからこそ、自分たちの強みを理解して、商品を絞り、必要としてくれる人に届けて、きちんと利益を残す。


そんな商売を目指しています。


理想は、職人としての自由と、経営としての安定を両立させること。


言葉にするのは簡単ですが、実現するのはなかなか難しい。


今も試行錯誤の途中です。


それでも、楽天市場で安い商品をひたすら作っていた頃とは、目指している場所が少し変わりました。



たくさん売るために作るのではなく、作り続けるために、きちんと売る。


今は、そんな商売をしていきたいと思っています。



R atelier & Co.
中目黒の革工房より