2026/11/02 14:25

どうしても、自分の手で何かを生み出したかった。


2019年、日本でラグビーワールドカップが開催されました。

僕は2016年に中目黒で革工房を始めた頃から、この大会をずっと意識していました。

自分もラグビー経験者で、今は革職人。

だったら、自分にも何かできるんじゃないか。

頭の片隅には、ずっと「ラグビーボールの形をしたバッグ」というアイデアがありました。

今日は、そのバッグが生まれるまでの話です。

何か作らなきゃ、という焦り

実は、ラグビーボール型のバッグは、すでに世の中にいくつもありました。

でも、他の人の作品を見ると、そのデザインに引っ張られてしまう気がして、あまり見たくなかったんです。

どうせなら自分で考えて作りたい。

そんなことを考えているうちに時間は過ぎ、気づけばワールドカップ開幕まであと2週間。

結局、ギリギリになってしまいました。

本物のラグビーボールを分解した

ラグビー経験者には、ボールの形に対する独特の感覚があります。

少しでも形が違うと、なんとなく違和感がある。

メーカーによっても微妙に形が違うんですよ。

僕が好きだったのは、ギルバートの少し丸みのあるボール。

そこで知り合いから古いラグビーボールを譲ってもらい、実際に分解して型紙のベースにしました。

基本構造は4枚の革を縫い合わせるだけ。

ただ、どうしても実現したいことがありました。

「ストラップを外したら、ラグビーボールとしてパスして遊べること」

バッグなのに、パスして遊べる。

実用品として考えたら、ちょっと変なコンセプトですよね(笑)。

でも、それが面白かった。

そして素材は、どうしても栃木レザーを使いたかった。

昔の革製ラグビーボールのように、使い込むほど飴色になっていくバッグ。

あの雰囲気を表現したかったんです。

一晩で完成したバッグ

翌日、15人ほどが集まるワークショップを予定していました。

どうしてもみんなに見せたくて、一晩で作り上げました。

完成したバッグは、本物のラグビーボールとほぼ同じ大きさ。

空気が入っていない分、少ししょぼっとしています。

でも、僕には練習後に空気を抜いたラグビーボールのように見えました。

完成したときは、本当にうれしかった。

これを使い込んで、飴色に育てたい。

そんなことを考えていました。

「また変なもん作って〜」

完成したバッグを見た妻は、

「また変なもん作って〜」

と笑っていました。

翌日のワークショップでみんなに披露すると、なかなか面白い反応が返ってきました。

僕はワールドカップへの気持ちや、製作の経緯を真剣に説明したんですが、

「へえ、実物のラグビーボールってこれくらいの大きさなんだ」

という声が多かった気がします(笑)。

でも、それでよかったんです。

このバッグを作ったとき、売れる商品になるなんて考えてもいませんでした。

ただ、自分がどうしても作りたかったものを、自分の手で形にできた。

それだけで十分満足でした。

でも、このときはまだ知りませんでした。

このちょっと変なバッグが、これから本当にたくさんの人たちと僕をつないでくれることを。

次回【後編】へ続く。